代表インタビューInterview
【第5回】ピンチを乗り越え事業を拡大。「失業のない社会」を実現するために走り続ける
人材派遣会社エヌエフエーを知るための社長インタビューの第5回。
第4回の記事では創業3年目で直面したリーマンショック、派遣先の業績悪化など、次々と訪れたピンチへの対応、当時の思いを振り返りました。
最終回となる今回は危機を乗り越えた後の事業成長、独自の「PEOモデル」にかける思い、そしてエヌエフエーの今後について聞きました。
(5回連載の第5回)
―― 料金の未払いをきっかけに派遣先から引き継いだコールセンター事業が会社の成長を牽引し、リーマンショックで落ち込んだ売上も回復しました。その後は順調に推移したのですか。
コールセンターを自社で運営するようになったことは、会社にとってプラスに働いたように思えました。ところがコールセンターをめぐってまたもや会社が大きく揺れることになります。
2015年3月にこのコールセンターが扱っていた光回線商品が終売となったんです。別の大手通信会社がサービスを引き継いだのですが、その会社はコールセンター事業を自社のグループ会社で行うことにしたんです。当社のコールセンターのスタッフたちはそのグループ会社のコールセンターで派遣社員として引き続き働けることになったのですが、勤務地が当社のある大田区から遠くなってしまいました。当社のスタッフは大田区周辺に住んでいる人が多いため、通勤が大変になり、次々と辞めてしまいましたね。
―― 売上が減少したことはもちろん、コールセンターを辞めた派遣社員のケアも必要となりました。どのように対処したのですか.
この危機を救ったのが、当社独自の「PEO(Professional Employer Organization、習熟人材雇用組織)モデル」です。
PEOモデルはアメリカなどで普及している雇用モデルで、顧客企業と共同雇用主となる企業が契約を締結し、顧客企業の人事関連業務を代行するサービスです。顧客企業は単独で雇用責任を負うことなく人材の活用ができます。
法制度の関係で日本でこのモデルをそのまま取り入れることはできないため、当社はこれをアレンジした独自のPEOモデルをつくりました。派遣が終了したスタッフには次の派遣先が決まるまでの間、自社研修センターで働きながら新しいスキルを身につけてもらいます。これにより派遣期間が終わった後も収入が途切れることがないため生活の安定につながるほか、当社にとっても常に一定のスキルを持つ人材がいる状態ができるため、派遣要請があった場合にすぐに応えられるというメリットがあります。
また派遣先の地域はむやみに広げず、ドミナント戦略を採用して地域の企業に地域の人材を派遣するようにしました。

―― コールセンターのスタッフにも自社研修センターで働きながらスキルアップしてもらい、新しい派遣先を紹介していったのですね。珍しい取り組みですが、いつごろから実施しているのですか。
導入を考え始めたのはリーマンショックのころです。当時、「派遣切り」が大きな社会問題になっていました。私たちにとって派遣社員は資産です。「どうしたら派遣社員の雇用を守れるのか」と悩み、試行錯誤を重ねました。その結果、現在の当社の4つの戦略のうちの2つ、ドミナント戦略とリスキリング戦略にたどり着きました。「職場と居住地を集中立地させると仕事が途切れない」「それでも万一、派遣先でお仕事がない時でも研修や就業できる自社研修センターを構築しておく」という考え(人財プール型派遣モデル)に行きつきました。そして2010年に自社研修センターを設置しました。それがすでにアメリカ等で普及しているPEOモデルに近い、ということは、のちに知人や文献で知りましたね。ということで人財プール型派遣モデルも明確にPEOモデルと改称し、その後、どんどんそのモデルを強化していきました。
PEOモデルを確立していたことで、2016年8月に新しく超大手ネット通販会社の川崎物流センターへの派遣が始まった際も、スキルのある人材を大量に派遣できました。超大手との取引実績ができたことで、他社からも次々と声がかかるようになり、2017年には大手食品メーカーの工場への派遣も始まりました。売上も一気に増え、2019年には売上は8億6000万円、2020年には13億円に達しました。

―― 日本では人口減少などに伴う人手不足が続き、人材の争奪戦が起きています。そんな中でもエヌエフエーは派遣社員数を伸ばし続けている理由を教えてください。
一つは、これまで積み上げてきたノウハウを求人で生かしているからです。まず「ハロ!わくおさん」というメディアを運営し、派遣という働き方について解説して派遣に興味のある人たちの疑問に応えています。また求人広告は仕事内容や時給、職場の雰囲気、身につくスキルなどをできるだけ詳しく記載し、求職者の不安を解消するように努めています。問い合わせ先として覚えやすい番号のフリーダイヤルも設けています。
既存の派遣社員から当社の評判を聞いて、別の派遣会社から移ってくる人も多いですね。「職住近接」が実現できる点に魅力を感じたという声もよく聞きます。
―― エヌエフエーで派遣社員として働くことで、どういった未来が見えてくるのでしょうか。
これまでの派遣社員の中には、派遣先に気に入られてそこに正社員として入社した人が少なくありません。実は当社の営業部長も、もともと時給1000円の派遣社員だったのですが、派遣先からの評判が非常によかったため声をかけて当社に入社してもらいました。ほかにもコツコツ働いてお金を貯めて起業した人もいますね。具体的な夢や目標はなくても、働いていくうちにやりたいこと・仕事を見つける人も多いと感じます。
―― 大崎社長がピンチに直面しても経営を続けてきたモチベーションはどこにあるのですか。
この仕事では「ありがとう」がこだまするんです。派遣先の企業からは「いい人材を送ってくれてありがとう」と、派遣社員からは「いい職場を紹介してくれてありがとう」と言ってもらえる。現在の成熟した社会でこんなステキな仕事があったのかといつも感動します。ありがとうを聞くと、苦しくてもがんばろうと思えるんです。

―― 最後に今後の目標、夢を教えてください。
まず事業を拡大し、売上を伸ばして、サポートできる企業と派遣するスタッフを増やしていきたいと思います。今は大田区と周辺の一部地域だけですが、今後は日本各地でドミナント展開し、いつか失業のない社会を実現したいと思っています。
派遣社員という働き方はワークライフバランスが取りやすく、今の時代にマッチしています。派遣社員だったスタッフが当社の営業部長になったように、いずれ派遣社員から大手企業の社長や大臣になる人もでてくると思います。私はそんな社会を見てみたいし、実現したい。政治家になるという夢は諦めましたが、根本にあった「日本をよくしたい」という思いは変わりません。エヌエフエーを大きくしていくことでその一助になれると思っています。